
「一緒があたりまえ」の社会の実現を目指す日本ボッチャ協会(JBoA)は、2025年度から社会連携プロジェクト「BETTER TOGETHER」をスタートしました。
多様なパートナーとの取り組みや、そこから生まれる変化や想いを伝えるウェブ企画が「BETTER TOGETHER Stories」です。JBoAとの活動を通じて感じたことや、その取り組みがもたらしたインパクトを、当事者ご本人の言葉でお届けします。
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第2回にご登場いただくのは、明治ホールディングス株式会社・サステナビリティ推進部長の森田次郎氏と株式会社明治・ニュートリション事業本部ニュートリションマーケティング二部専任部長の竹之内志帆美氏のお二人です。
明治グループは2018年から日本ボッチャ協会とパートナーシップを締結し、ボッチャ日本代表「火ノ玉JAPAN」への商品提供を中心とした栄養サポートを行うとともに、社内ボッチャ大会の開催を通じて社内でのDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)意識の向上を図ってきました。
社内でのボッチャ普及とともに、社員の多様性に対する意識も大きく変わってきたようです。こうした変化はどのように育まれてきたのか。明治グループが目指す未来とボッチャはどのような関係になっていくのか。
グループ110周年を迎えた10月、創業記念イベント「M-One Fes」では社内ボッチャ全国大会も行われ盛り上がった明治京橋ビルにて、森田さん、竹之内さんにお話を伺いました。
競技への支援から 社内文化へと広がるボッチャ
ーー まず、明治グループとして現在力を入れている社会的な取り組みを伺いたいと思います。スポーツやサステナビリティも含めて、社会的な文脈で取り組んでいることを教えてください。
森田:明治グループの社会的な取り組みとして、サステナビリティの観点では、カーボンニュートラルや水使用量の削減など、環境への取り組みを進めています。また、人権ポリシーを策定し、サプライヤーも含めたグローバルでの人権尊重にも取り組んでいます。
スポーツの観点で言うと、グループ会社の株式会社 明治(以下、明治)は2015年に東京2020オリンピック・パラリンピックに関するパートナー契約を結びました。当時、明治のリソースを見るとザバスやVAAMなどのスポーツ栄養食品がありました。そして会社の歴史としては、オリンピック競技を中心に日本代表チームやトップ選手への栄養サポートを行っていました。東京2020大会までの間にはリオ大会や平昌大会もあり、それまでのスポーツ支援の取り組みを整理する中で、「冬季競技やパラ競技への支援実績がないよね」という話になったんです。
そこから冬季競技ではスピードスケートの高木美帆さんをサポートし、2016年には日本パラ陸上競技連盟、2018年には日本ボッチャ協会と契約しました。両競技団体へのスポンサー活動は今も続いています。
この10年ほどを振り返って、ボッチャで特に大きな意味があったのは、社内の文化になりつつあることだと思います。
例えば、10月のグループ創業記念イベント「M-One Fes」でも、3日間のうち2日目にボッチャ大会を行いました。これは私もかなりこだわって、担当の部長に提案しました。
M-One Fesでは、「健康にアイデアを」というコーポレートスローガンを軸に、人や社会、地球の健康に資する取り組みやアイデアを社員から募集する社内アワードを行っていましたが、これまでは本社中心の参加になりがちでした。今年の10月に実施したものはその拡大版で、110周年を記念して盛大にやろうという中で全国の支社や工場を巻き込む、吸引力のあるコンテンツとして、ボッチャを提案したんです。
野球からボッチャへ 誰もが参加できる事業所対抗戦
ーー 社内ボッチャ大会も盛り上がっていますね。このボッチャ熱はいつ頃から高まったのでしょうか。
森田:明治には、何十年もの歴史を持つ事業所対抗野球大会がありました。それが、人事部の「誰もが参加できるボッチャがいいのでは」という考えから、2024年にボッチャ大会へと切り替わったんです。
これが、とても盛り上がるんですよ。私も本社大会に出ていますが、今年は13チーム中、残念ながら5位で敗退となりました。
さらに、M-One Fesを通じて、これまで明治を中心に行われてきた取り組みが、他のグループ会社にも広がっています。そのグループ会社では今年は本社事業所で開催し、来年以降は全国に展開することも検討しています。
2016年頃の、多様性を尊重する考え方が今ほど社内に浸透していなかったことを考えると、この10年ほどで本当に大きく変わりましたね。
ーー 野球からボッチャに変わって、皆さんが取り組みやすくなった、関わりやすくなったということはありますか。
竹之内:私はオリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)推進部の後、人事部に異動し、DE&Iを担当しました。事業所対抗戦が切り替わったのは、私が人事部を離れた後ですが、在籍していた頃からボッチャ大会について相談を受けていました。
森田:多様性を尊重する取り組みを推進する新しい組織ができたこともレガシーですね。
竹之内:もともと野球をやっていた人たちの思いもあると思いますが、野球はどうしても経験者が中心になります。一方、ボッチャは年齢や性別、障がいの有無、スポーツ経験に関わらず、多様な人が一緒に参加しやすい。その力が、社内でも発揮されていると思います。
オリパラ推進部時代に社内ボッチャ大会を開催していた時、ある工場から印象的な話を聞きました。その工場では、社内交流でボウリングを行っていたものの、障がいのある社員が参加できていなかったそうです。そこで、「ボッチャならできるのでは」と取り入れてみたところ、みんなが参加できたそうです。
そうした声を聞くと、参加する社員の幅が広がっていると感じます。それがボッチャならではの価値なのではないかと思います。
ーー 社内大会は、どのくらい広がっているのでしょうか。
森田:明治では全国27事業所で、230チーム以上あります。他のグループ会社でもチームが集まり、全国大会につながっています。
竹之内:私も全国大会に出たかったのですが、予選で敗退してしまいました。オリパラ推進部時代から、かなりボッチャに関わってきたかと思うんですけど、特別扱いはしてもらえません(笑)。初めてやる人のほうが上手だったりするんです。私はルールは分かるのに、実際にやるとなかなかうまくいかない(笑)。経験に関係なく、誰にでもチャンスがあるのもボッチャの面白さですね。
森田:実力で勝たないとね(笑)。当時、パラリンピックを盛り上げるために各地で企業対抗ボッチャが行われていて、明治も関西や広島で優勝チームを出していました。大阪にいた、すごく上手な社員が本社に来て、私はその人に負けるんです。今年も負けました。
楽しさを入口に 共生社会を自分ゴトに
ーー ボッチャと関わることで意識したことはありますか。
森田:東京2020大会が掲げた「共生社会の実現」を、多くの人に自分ゴトとして捉えてもらうにはどうしたらいいか、ということです。明治グループとしても、特にパラリンピックの成功を支える存在になりたいと考えていました。
当時、あるパラスポーツ関連番組のプロデューサーが、「パラスポーツとして正面から入っても受け入れられない。面白いと思って触れてみたら、実はパラスポーツだった。そんなアプローチも大切ではないか」という話をしていました。
ボッチャには、まさにそういう魅力があると思います。手軽に誰でも参加できて、楽しめる。そうした観点も、協賛を決めた理由の一つだったと思います。
当時は、東京2020大会に向けた機運醸成の一環として、「meiji Tokyo 2020 Fes」という主催イベントに加え、全国のイオンなどの催事場を使った流通キャラバンも、年間で最大30件ほど行っていました。
そこでのメインコンテンツも、やっぱり誰でも楽しめるボッチャだったんです。
選手のニーズに寄り添う 栄養サポート
ーー パートナーシップ締結以降、火ノ玉JAPANへの栄養サポートについて、どのような取り組みをされていますか。
竹之内:最初のきっかけは、内閣官房の2020年オリンピック・パラリンピック東京大会推進室から、選手の栄養面でのニーズについてお話をいただいたことでした。
森田:選手によっては食事や栄養摂取にさまざまなニーズがあることから、当初は流動食にも関心を寄せていただいていました。
竹之内:東京2020大会の際には、提供した菓子類が気分転換に加え、糖質を補う場面でも活用されていたと聞いています。当時は村上コーチとお話ししながら、選手が好むものや使いやすいものを伺い、商品を提供していました。そうしたやり取りを重ねながら、今の提供商品が選ばれているのだと思います。
ーー 今年度の国際大会に向けても、牛乳、乳製品、栄養調整食品などをご提供いただいています。
竹之内:はい。幅広い商品を通じて、さまざまなニーズにお応えできることは、明治グループならではの強みだと感じています。
「普通って、誰の普通?」 社員に生まれた気づき
ーー ボッチャを通じて、社内にはどのような変化が生まれていますか。
森田:ボッチャだけでなく、パラスポーツ全般を通じた変化ということかもしれません。当時は、社内で「ダイバーシティ」という言葉もほとんど浸透していませんでした。
竹之内を中心に、オリパラの社内機運醸成に取り組みました。特に力を入れたのは、社内文化を変えることです。組織に新たな視点を取り入れ、多様性を高めていきたい。その軸になるのはパラスポーツだろうと考え、セミナーや体験会などの社内イベントを重ねました。
活動を総括した際の社内意識調査では、こうした取り組みに2つ以上参加した人の79%に、ダイバーシティへの意識の高まりが見られました。参加していない人は37%となっており、参加経験の有無によって大きな差が見られました。
ボッチャは入口のハードルが低く、参加する人を選ばない。そうした特性も、意識の変化につながったのかなと思います。
竹之内:担当していた当時、特に記憶に残ったのは、「普通とは、誰の普通なのか」と考えるようになったことです。「普通は」と口にしたときに、はっと立ち止まる。自分にとっての普通が相手にとっても同じとは限らない。そういう気づきが、少しずつ生まれていったのだと思います。
ボッチャは参加しやすい一方で、普段は接する機会の少ない、重度の障がいのある選手と触れ合う貴重な機会にもなります。選手が一投すると、「うわっ」「すごい」と盛り上がる。障がいの有無を意識するというより、一人のアスリートとしてそのプレーに驚き、一緒に競技を楽しめるんです。そうした体験を生む力は、とても大きいと思います。
社内のDE&I意識の変化 インクルーシブな視点を仕組みに
ーー 商品やマーケティングには、どのような変化が見られますか。
竹之内:私たちは食品や医薬品を扱う企業グループです。商品を使う方の中にも、障がいのある方をはじめ、さまざまな背景や特性を持つ方がいます。だからこそ、DE&I推進は社員みんなが働きやすくなるためだけのものではなく、そこで得た気づきを商品開発やマーケティングにも生かす必要があると考えていました。
私が人事部でこの取り組みを担当していたときには、CMや商品開発の担当者が、表現や商品のあり方について相談に来てくれました。「子育ては女性が中心で、男性がサポートする側という描き方になっていないか」「商品パッケージの色の使い方に固定的なイメージが含まれていないか」といったことです。障がいの有無だけでなく、性別に関する固定概念やLGBTQ+を含む多様な属性・背景にも配慮する意識が、社内に広がってきたと感じます。
森田:商品でも、そうした視点を取り入れた事例があります。例えば、メルティーキッスのアソート商品では、色覚特性のある方にも味の違いが伝わりやすいよう、個包装の色調を見直すとともに、フレーバーを示すイラストを加えるなど、段階的な改良を行っています。
ーー そうした視点を、社内に根づかせる取り組みも進んでいるのでしょうか。
森田:私が現在の業務で立ち上げに携わった「meijiサステナブルプロダクツ認定制度」では、開発から調達、生産、物流、消費まで、各段階の基準で商品のサステナビリティを評価しています。
大きく5つの柱があり、その一つの柱を「人権・環境に配慮した容器包装」としています。例えば、FSC認証紙を使う、包装設計で温室効果ガスの排出を減らす、バイオ素材を使う、リサイクルしやすいように素材を単一にする、といった基準があります。
そこに最後に加えたのが、インクルーシブな包装設計という視点です。20以上ある要件の一つですが、開発部門やマーケティング部門にも、こうした要件を意識して商品づくりに取り組んでほしいと思っています。
制度を作るのに1年はかかりました。数多くの商品を調べて評価するんです。ただ、担当者がこうした視点を意識し、実際の改良につなげられているかといえば、まだまだこれからです。できたばかりの制度なので、もう少し社内に根づかせていく必要があると思っています。
企業文化を変える取り組みとオリパラのレガシー
ーー スポーツのスポンサーと聞くと「支援する」という印象が強いですが、むしろ社員が自ら参加することのほうが大きかったのかなと感じます。そういう形で社内に広がっていったのでしょうか。
森田:そうですね。競技支援として商品提供もしていましたが、社内の企業文化を変えるという軸が、一番強かったと思います。
オリパラではいくつかの戦略を掲げていましたが、明確にレガシーといえるものは、たぶんDE&Iです。当時明治のDE&Iを推進する「DIAMOND プロジェクト」を立ち上げ、竹之内が人事部に異動してその推進を担いました。それが今につながっています。
パラリンピックがなくても、時代の要請を受けて、少なからず多様性を尊重する取り組みは進めていたとは思います。ただ、明治グループにはパラリンピックという発射台があったことで、そうした取り組みを早い段階で進めることができました。そこで築かれた基盤が、その後の取り組みをさらに進める力になったと思います。
今では、DE&Iを人財戦略の柱に位置づけ、目標を立てて取り組んでいます。社会的な要請もありますが、その土台を作ったのがオリパラだったのかなと思います。
竹之内:人事の担当者も、「多様性を尊重するための取り組みをやらなければと思っていたけれど、それを前に進める大きな後押しになったのはオリパラだった」と話していました。
取り組みは、セミナーなどの従来の方法でも進められたと思います。ただ、ボッチャのように、誰もが参加しやすく、体を動かしながら多様性について自然に学べる体験型の取り組みは、オリパラへの協賛がなければ生まれなかったかもしれません。
その考え方は、その後の人事施策にもつながっていると感じます。私が人事部にいた頃も、ラグビー選手にダイバーシティをテーマとしたセミナーをお願いしたことがありました。現在では、明治グループが契約するスポーツチームや選手の知見・経験を生かした、社員の健康づくりやモチベーション向上につなげる取り組みも少しずつ増えています。スポーツを応援・支援するだけでなく、その力を借りて、社員にいつもとは違う角度から気づきや学びを届けようという考え方は、人事の取り組みにも根づいてきたのかなと思います。
ボッチャとともに描く未来
ーー 最後に、日本ボッチャ協会との共創を通じて実現したい未来や、ボッチャに期待していることを教えてください。
森田:企業や自治体を軸にした大会がオリパラの機運醸成の頃より、何となく減ったように感じていました。私はボッチャが好きなので、もう一度、そういう場があってもいいかなと思います。
ゴルフに日経カップがあるじゃないですか。企業対抗のボッチャ大会があれば、私は出ますよ(笑)。
大会の目的や運営方法など、検討すべきことはありますが、企業や自治体が競い合い、交流できる場が再び生まれたらうれしいですね。
竹之内:オリパラ推進部の引き継ぎ資料で、パラ陸上やボッチャに関する取り組みについて、3点書いた記憶があります。
一つ目が、選手やチームへのサポート活動の社外発信です。商品提供によるサポートはなかなか外からは見えにくいのですが、ありがたいことに今はユニフォームにmeijiのロゴを掲出いただいています。そうしたこともきっかけに、明治グループの取り組みをより多くの方に知っていただけたらと思います。
二つ目は、社員のダイバーシティへの気づきや意識向上につながるイベント。これは、ボッチャ全国大会が開かれるようになったので、取り組みが続いていることをうれしく感じています。
そして三つ目が、選手との接点から得られる気づきを商品開発にも生かしていくことです。ここは、まだこれからだと思っています。例えば「選手たちは、実は明治グループの商品をこういうふうに摂っている」と社内に伝えるだけでも、選手をぐっと身近に感じたり、自分たちの商品をこれまでとは違う視点で捉えたりするきっかけになると思うんです。
今は私もマーケティングの部署にいて、プロテインを選手に使っていただいているので、選手のリアルな使い方や声を、より良い商品やより使いやすい商品につなげていきたい。私自身も含めて、マーケティングや開発に携わるメンバーの間で、そうした意識がもっと高まればいいなと、改めて思いました。
編集後記:
今回、特に印象に残ったのは、パラスポーツとの関わりで生まれた気づきが、商品や広告の表現、さらにはインクルーシブな包装設計を評価する制度にも広がっているというお話でした。
一緒に楽しむ体験が、自分にとっての「あたりまえ」を問い直す機会になる。そして、商品を使うさまざまな人を思い浮かべる視点にもつながっていく。明治グループの取り組みからは、そんな変化の積み重ねが見えてきました。
竹之内さんの「普通って、誰の普通なのか」という問いと、森田さんの「パラリンピックという発射台」という言葉。スポーツとの出会いを、その場限りにせず、日々の仕事や企業文化へとつなげていく。その積み重ねが、「一緒があたりまえ」の社会を形作っていくのだと感じました。
インタビュアー:小倉大地雄